製造業

インド政府の強いリーダーシップ推進、Make in India!

インド製薬メーカー、積極的に借入を増やし成長を加速!

桝谷 長男
桝谷 長男
2017/4/12

今、インドの製薬メーカーが大きくその戦略の舵を大きく切ろうとしている。特に一流の大手製薬メーカーはこれまでの実質無借金経営から借金を持つ方向にその財務戦略をシフトさせている。

例えば、シプラ(BSE上場)は2014年3月期のネットデット(純負債、借入金から現金同等物を引いた値)が1,072.2crore(約182億円、1ルピー=1.7円換算)から2016年3月期で4303.4crore(約731億円)へとこの2年で4も増加している。ルピン(BSE上場)は同時期において現金余剰であったが、2016年3月期には6,339crore(1,078億円)と大幅に増加させている。

これまでインドの製薬メーカーの大半は、M&Aに頼らない有機的な成長を追求してきたが、ここ最近では積極的にM&Aに打って出るようになっている。2015年7月には、ルピンはアメリカのGavis製薬を890百万ドル(約979億円、1ドル=110円換算)で買収し、その2か月後にシプラがイギリス子会社を通じてアメリカの製薬メーカーであるInvaGen製薬、Exelan製薬の2社を合計で550百万ドル(約605億円)で買収した。

これらの買収にはある共通する重要な点がある。それはインドではなく、インド国外で資金を調達していることだ。2016年10月には、アーメダバードに本拠を置くインタス製薬が子会社を通じて、イギリスとアイルランドにおけるActavisのジェネリック薬事業をすべて借入により買収することを発表した。

シプラは一連の買収により、アメリカでの売上が200百万ドルから400百万ドルに倍増し、さらに中枢神経系、心臓血管系、感染症系など多くの分野にわたる製剤が彼らのポートフォリオに加わった。さらに買収したInvaGenはニューヨーク州のホーポージ(Hauppauge)に製造とR&D拠点を有しており、米国に製造およびR&D拠点を有していなかったシプラとしては、これらも手に入れることになる。Gavinを買収したルピンは米国における皮膚科領域、規制薬物、その他ニッチ領域の製剤を手に入れた。インタス製薬は買収によりイギリス・アイルランド市場でトップの地位に立つことになる。

これらの買収を通じてわかることは、インドの製薬メーカーはこれまでの資本構成を大きく見直し、財務レバレッジを活用し特にインド国外での借り入れを増やす方向へシフトしている。シプラのグローバルCFOであるKedar Upadhye氏によれば、「インドでの資本コストはおよそ12-13%であるが、一方海外での負債調達はだいたい2-5%が調達コストであり、負債による調達のほうが断然効率的である。実際に今回の買収コストは3%以下である」と語っている。

負債すなわち借入の活用は決して新しいものではない。過去にも多くのインド製薬メーカーが外国通貨建てて転換社債を活用していた時期があった。ただ過去と現在で大きく違うのは、増加しているとはいえ、負債額は負債資本比率(D/Eレシオ)からすれば決して危険な水準ではなくむしろ安全すぎるくらいなのである。製薬業界全体のD/Eレシオは0.5以下(2015年3月期は0.38、2016年3月期は0.40)であり、他のインフラ関連企業の2.0-4.0倍と比べて大幅に低い。適切にリスクを見積もられた‘よい買収’は借り入れをまかなう以上の成果がありそうだ。

あえてリスクを上げるとすれば、予期せぬ買収した先での各国政府の政策変更であろう。これにより借入の返済の変更を余儀なくされることもある。一例が、ドクターレディ(BSE上場)が2006年にドイツで買収したbetapharmのケースだろう。買収後数カ月でドイツ政府の調達方針の変更により市場力学が大きく変わり、その結果ドクターレディは新領域への進出等を試みるも結果として負債が大きくのしかかり、その後数年苦しむこととなった。

それではなぜ、有機的成長ではなく、買収がより好まれるようになったのだろうか。それにはいくつか理由がある。一つにはジェネリック市場では製剤を上市するまでの時間が極めて重要であるからだ。一から工場を建設したり、既存の工場から一からマーケティングをおこない上市するには驚くほど時間がかかり効率的ではない。

さらに、インド製薬メーカーとUSFDAとのコンプライアンス上の問題が頻繁に起こり、これが業界全体を用心深くさせておりこれが有機的成長を躊躇させている。なぜなら、USFDAは査察を通じて何らかの不備を理由に基準を満たしているにもかかわらず、関係のないインド工場から米国への輸出を禁止したり、罰則を科すためである。こういった状況下では、すでに基準を満たした工場を買収することは、新工場を自ら建設するよりもより簡単な方法だからである。

3つ目に多くのインドの大手製薬メーカーは特に世界最大市場であるアメリカに巨大な拠点をすでに有しているもののそれが有機的成長を実現させるものでは必ずしもないことである。ルピン、サンファーマ、ドクターレディはすでに1千億円以上を売り上げているが、さすがに同規模の売り上げを増やすことはたやすいことではない。実際に世界最大のジェネリックメーカーであるテバはアメリカでこの15年の間に数多くの買収を繰り返し、成長を遂げてきたのであり、インドの製薬メーカーはそれに追随しているに過ぎない。

4つ目はかつて低価格を武器に大手インド製薬メーカーが支配していた領域での競争の激化に直面し、さらなる製品群の拡大の必要性があることであろう。インドだけでなく他の国の比較的小規模な製薬メーカー(インドで言えばアジャンタ製薬、IPCA、アレンビックなど)がこれまでに大手が支配していた市場に参入をしてきた。例えば1年前まではたった3社しかいなかったマラリアやリウマチ性関節炎に使用される製剤メーカーが、今では7社となり競争が激化している。同じく皮膚感染症向け製剤のメーカーはTaro製薬(2015年にサンファーマが買収)しかいなかったが、現在では4社となっている。

しかし、製薬メーカーの負債増加は決して買収によるものだけではない。グレンマーク製薬は2014年3月期の借入金は2464.3crore(約419億円)から2016年3月期には同じく3118.9croreへと増加しているが、この期間グレンマークは一切買収を行っていない。調達資金を何に投資したのかを調べると意外なことがわかる。それはM&Aではなくまさに有機的成長を実現すべくR&Dへ積極的に投資を行っていた。投資アナリストの中には、R&D投資重視の戦略に懸念を有する者もいるが、グレンマークのトップであるGlenn Saldanha氏は一切気にする様子はない。「継続的なR&D投資は、規模の経済を得るための必要最低限の投資であると同時に今後3年間で有機的成長を実現するために必要な投資である」とコメントしている。各社によって投資方針は大きく異なり、有機的成長か、はたまた買収による成長がどちらが正しいというものではなく、企業ごとにおかれた環境により異なる。しかしはっきりしていることをあげるとすれば、今後もインド製薬メーカーの借り入れに基づく成長戦略は続くだろう。