政治

モディ政権の強いリーダーシップがインドを変革中

インドでお酒が買えない?

桝谷 長男
桝谷 長男
2017/9/25

・ビハール州などBJP出身の首相を務める州ではアルコールの販売が禁止されるなど、ヒンズー至上主義が高まりつつある
・アルコール中毒などで亡くなるケースの大半が非合法のアルコール製造業者により生産されたアルコールによるものだが、規制強化派は非合法でのアルコール製造業者と正規のアルコール業者をアルコール製造業者として同一視しており、正確な理解が求められる


2016
12月、インドの裁判所は国道もしくは州道沿いから500メートル以内距離にある場所でのアルコールの販売を禁じる判決を下した。この判決は、インド全土の酒販店の42%近く、おおよそ26,800店にも及ぶと試算されている。国道沿いのホテルやレストランでも適用されるため、特に外国人にとってはその影響は極めて大きい。また、酒販店だけでなく酒税を当てにする各州への影響も甚大である。

観光は雇用を創出するにもかかわらず、なぜそれを断ち切るような規制がなされるのか理解に苦しむと語るのは、アミタバ・カント氏。彼は
Niti Aayogという大手酒販店チェーンの社長だ。最高裁の国道沿いにおけるアルコール販売規制は100万人以上の雇用を失うこととなると憤慨している

確かに大半の州において、酒税は大きな収入の源泉となっており、州により差はあるものの州の税収の25%から40%を酒税が占めている。したがって酒税が落ち込むことは、州の予算、ひいては州の景気に影響を与えうる。そのため最高裁判決を回避するための通達を出している州もある。ヒマチャルプラデシュ州では、主要地域に16の国道があり、その国道でのアルコールの販売を認める通達を出している。いくつかの州では、州経済を守るためにこうした動きもみられるだろうが、あくまで一部の州に限られるだろう。マハラシュトラ州だけで30,000店近い酒販店が影響を受けるだろう。すでに300店が閉鎖したとディーパク・ロイAllied Blenders and Distillers社副社長は語っている。さらに昨年11月の高額紙幣無効化の影響から回復してきたところでの今回の規制導入は、最悪のタイミングだったようだ。さらに闇経済を助長しかねないとも言われている。

また、インドは世界的に交通事故が多い国でもある。2011年の道路高速道路省の調査によれば、年間に49万件の事故のうち約14.2万人が事故が原因で亡くなっている。速度超過による違反が事故の4割を占めるなか、飲酒運転が原因の事故数は24,655件、10,533人が飲酒運転により命を落としている。

デリーを拠点に自社ワイナリーを持ちワインをインドに展開しているFratelli Wines社の社長カピル・セクリ氏によれば、インド人のワイン志向の高まりを受け、これまで積極的な事業拡大をおこなってきたが、この規制導入により、いったんブレーキをかけなければならないかもしれないと懸念している。銀行からもアルコール業界は要注意業界であるといわれており、今は新しい資金調達先としてファンドなどからの調達を検討しているところだと語っている。

この規制はローカルだけでなく、インドに進出しているグローバル企業にも影響を与えようとしている。カールスバーグ社は20171-3月期のアジア地域は数量ベースでこれまで成長を続けてきたにもかかわらず初めて減少となった。これはインドでの規制導入の影響が大きかったようだ。インドでは前年比20%近くの減少となった模様。

しかし今回の最高裁規制は、アルコール業界が直面するいくつかの課題の一つに過ぎない。アルコール中毒患者の増加は、州に規制導入を促すレベルまでになっていたことも事実だ。国の犯罪統計によれば、2013年にアルコール中毒で亡くなった人数は1日当たり15人にものぼり、それらの大半は低所得層の女性だ。だがアルコールからの税収に依存する州財政からすれば、長期にわたる規制導入は困難である。グジャラート州のようにほぼ完全に(一部では認められている)禁止できる州はほとんどない。

だが、選挙での票を得るためにアルコール禁止を掲げる地方政党もあり、一定程度の支持を獲得している。20148月には、前ケララ州首相であったオオメン・チャンディ氏は州首相選挙前の選挙活動では州における完全禁止を掲げていた。ケララ州がインド全土の中でも高いアルコール消費量であったにもかかわらずだ。その後既存の酒販店がワインやビールなどの販売を引き続き認められる一方で、5スターホテルではインド産のアルコールのみ取り扱いを認めることに修正した。

2015年の州首相選挙前にアルコール販売の完全禁止を訴えて当選し、実際に当選後に公約を実践したビハール州首相であるニティッシュ・クマール氏はもっとも有名な事例であろう。また、タミルナドゥ州は他の州と比較して財政的にも酒税に依存していないにもかかわらず、2016年の州首相選挙で野党であったDMK党は即座の規制導入を訴えたが、段階的な規制を掲げたAIADMKのジャヤラリタ氏に敗れたことはある意味皮肉的だ。結果的にジャヤラリタは州首相に当選したのち、約6,800ある州の酒販店のうち500店舗を即座に閉鎖した。

「規制は必ずしもその目的を解決しない」と世界的アルコールメーカーのDiagioのインド子会社であるUnited Sprits社で事業開発部門のトップを務めるアバンティ・サンカラナラヤナン氏は語る。時に予想もしなかった方向に導くときがある。ビハール州はその最たる例だ。規制の余波で、おおよそ800croreルピー(約144億円、1ルピー=1.8円換算)の在庫が眠ったままだ。、実際に死者が出ているのは違法にアルコールを製造する違法業者であるにかかわらず、違法業者と正規に製造する業者をいっしょくたに扱っており、正規業者からすればたまったものではない。本質的な問題は違法業者によって製造されたアルコールを飲む側に問題があり、規制することでそれがなくなるものではないことだ。規制は本質的には特効薬にはなりえず、むしろ自爆していくようなものだ。例えば、アルコールの永久禁止を導入したグジャラート州はインドで最もアルコールが盛んなアルコール禁止州と揶揄されている。

アルコール禁止を最も進めているビハール州は、インドのアルコール消費量のたった2%程度であり、他の地域で容易に吸収できる。一方でビハール州にはアルコールメーカーにとって笑えないジョークがある。それは例えば、あるお客様をビハール州の生産工場に案内しても、ここではアルコールを生産しているにも関わらず、ここでは飲めませんと断らなければならない。実際にビハール州でアルコールの生産をしている企業は多数存在している。ビハール州の州都であるパトナにはカールスバーグ社が100croreルピー以上(18億円以上)の投資を行い、2014年から生産を開始している。また、2015年には、モルソンクアーズ社が150croreルピー(27億円)の投資を行い生産を行っている。しかし、ビハール州の規制導入により、工場稼働は低迷している。

ニティッシュ・クマール・ビハール州首相の実行したアルコール禁止規制が他の州にも波及することをアルコール業界を神経質にさせている。最近では、シバラジ・シン・チョーハン・マディヤ・プラデシュ州首相が州内の酒販店を段階的に閉鎖する意向を表明し、まず手始めにナルマダ川から半径5キロ以内の酒販店をさせた。ビハール州やマディやプラデシュ州はアルコール消費量が少ない州であり、規制の業界に与える影響は直接的には少ないが、彼らの属する政党はモディ政権を支えるBJPであることはアルコール業界を決して安心させない。昨年までは、ビハール州がアルコール禁止州になったとはいえ、あくまで地方独自の戦術的なものにすぎないと思っていたが、モディ政権が同様のスタンスをとる方向性であるとするならば、BJP出身の首相が19の州で就任しており、それらの州においてもアルコール禁止が導入されれば、業界に与える影響は尋常ではないだろう。