製造業

インド政府の強いリーダーシップ推進、Make in India!

インド・メルセデスベンツが業績悪化から過去最高販売台数を叩き出した理由

桝谷 長男
桝谷 長男
2018/2/21

・メルセデスベンツはインドにおいても高級車市場のリーダーである

・高い税率を課されているため、高級車市場は乗用車市場が拡大している一方で横ばいが続いているものの、ライフスタイルの欧米化の進展とともに富裕層の関心が高まりつつあり、市場は拡大していく模様


・インドの環境汚染の深刻化により国策により電気自動車推進が進む中で各社の対応が今後の成否を分けることになる

 

2012年はメルセデスベンツインドにとってインドに進出してから16年の中で最悪の年となった。販売台数ベースでBMWとアウディの後塵を拝する年となってしまったからだ。1994年に独資でインド市場に参入したメルセデスベンツは15年に渡りインド高級車市場を支配してきた。

 

独占市場に待ったをかけたのが2007年にインド市場にそろって参入したBMWとアウディ だ。

 

彼らは洗練されたモデルとメルセデスと比較して魅力的な価格水準をひっさげ攻撃を仕掛けてきた。両社ともメルセデスと同じドイツ技術のDNAを掲げて市場に殴り込みをかけてきた。モダンでスタイリッシュなデザインはインド人の心を惹きつけた。

 

一方のメルセデスは古臭いモデルのまま15年変わらずにいた。そして最もメルセデスの業績を悪化させた要因は、当時人気のあったSUV市場に展開するモデルがなかったことだ。

当時のメルセデスの伝統的モデルに固執する戦略は刻々と変化する顧客のニーズと乖離し、メルセデスは高年齢層向けのブランドというイメージがついてしまった。

BMWやアウディ、ジャガー、ボルボが結果的に「かっこいい」評判を得ることとなり、ドライバーの注目はメルセデス以外に向かうこととなった。

そして2009年にはBMWに追い抜かれ、2012年にはアウディにも追い抜かれることとなった。

 

メルセデスは市場の声に無関心でした。インド市場において唯一のプレーヤーであったためにほぼ独占に近い状態に安住し、顧客に満足を与えていませんでした。そして2009年はある意味メルセデスにとって大きな警鐘となったのです」と2015年からメルセデスベンツインド社長を務めるローランド・S・フォルガー氏は語った。

 

2009年はメルセデスが自省し、何がいけなかったのかそして、再びマーケットリーダーとなるために何をしなければいけないかを当時の経営陣に考えさせるきっかけを与えてくれ、そして2013年を「攻撃の年」と名付け、アクションを開始した。

 

結果は数年で現れた。2015年にはメルセデスは再びマーケットリーダーの座を取り戻し、2016年にはデリー首都圏における排ガス規制導入や高額紙幣廃止の影響をもろともせず、過去最高の販売台数を売り上げた。

2015-2016年のメルセデスベンツインドの利益は約50億円(280croreルピー)を計上し、2017年の第一四半期では過去最高の台数の3,650台を販売した。また若者世代向けの車ではないというブランドレッテルを変えることに成功し、これまでの平均購入年齢であった45歳から37歳まで下げることにも成功した。

さらにメルセデスは10年を経て2016年に世界市場においても首位の座を奪還した。

 

メルセデスノインドでの復活は2013年に発売を開始したAクラスが大きな影響を与えた。モダンなデザインモデルは瞬く間に売れることとなり、たったの10日間で400台以上の予約を得ることとなった。

さらに新モデルの導入は続き2015年には15モデル、2016年には13モデルを一気に市場に投入した。2017年にはEクラスも導入、さらにはAクラスの特別バージョン、Bクラス、Sクラスの特別版(Connoisseur’s edition)を発売した。ここ数年の電撃的な新モデルの投入は、メルセデスの「鈍感」イメージを打ち消した。

 

さらに、約180億円(1,000croreルピー)を投資し、20,000台の組み立て工場をプネ近郊のチャカンに立ち上げ、高級車市場においても求められる厳しい価格競争に備えた。この工場で、現在はインドで販売される8割の自動車が組み立てられている。このチャカン工場での生産により販売価格もこれまでの2割から3割程度下げられる余地を生み出した。さらに生産設備に工夫を凝らし、インドで年間500台以上販売できる車はインドで生産ができるようなコスト競争力を有する生産体制を整えた。

これは右ハンドルやEクラスなどのロングホイールモデルをメルセデスがドイツ国外で生産するのは世界的に見てもインドが初めてのことである。そしてインドでの生産はメルセデスがドイツ品質水準をインドにおいても生産することが可能となることを証明し、その後ブラジル工場を立ち上げた際にインド人スタッフをトレーナーとしてブラジルに派遣するなど、メルセデスにとって非常にいい経験となった。

 

さらにメルセデスはインドの道路環境に合うモデルを開発し投入した。例えば、世界的にはAMGは4リッターV8エンジン搭載だが、インドの環境では過大なパワーであり、さらには価格的にも2,300万円(1.3croreルピー)もするため、インド市場では受け入れられないと判断し、その代わりに3リッターV6エンジンを搭載したモデルをよりリーズナブルな価格である1,350万円(75lakhルピー)で市場に投入した。

 

また「アフォーダビリティ(手頃な価格で購入できること)」感を持たせるための新たにファイナンス面からのサポートも積極的に取り入れた。当初のイメージは高価格だけに、ローンを組んだとしても毎月の返済額も多額になることを懸念するイメージが強かったが、2013年にSTAR Agilityという新しいスキームを導入した。

 

STAR Agilityは契約の最終月に残額を支払うか、乗り換えることにより既存の車を下取りに出し、新たな車を購入し新たなローン契約を結ぶことだ。これにより月次返済金額を4割近くも減らすことができることとなった。これはこれまでメルセデスに手の届かなかった層の取り込むことに成功し、現在ではメルセデス車を購入する際の10%がこのローン方式によるものとなっている。メルセデスは過去の失敗から学び、インド市場に合致する魅力的な車や手に届く価格もしくはローンなどを提供し再び高級車市場のリーダーとなった。

 

メルセデスが取り組んだのはそれらだけでない。競合に比べて4割近く多い店舗を41都市89箇所設置するなど顧客により近づこうとしてきた。「顧客の側に」戦略、つまりは数多くの店舗展開の加速は成長の源泉となってきた。店舗展開はデリーやムンバイなどのTier1といわれる大都市だけでなくTier2、3などの中堅都市にまで手を広げている。

 

この「顧客の側に」戦略は、競合と差別化を図る新たな打ち手に大きく活かされることとなった。それは、スペアパーツだけでなくサービス料金が高額になることによる所有のトータルコストが高くなることが、高級車を初めて購入する層にとって購入を決定づける主要な要因になっていたため、メルセデスは保証期間を全車3年に延長する方策を打ち出した。それだけでなくさらに魅力的なサービスプランを用意し、特に最近発売をしたEクラス向けでは、2年間のフルサービスを提供する116,400円(64,700ルピー)のプランを提供した。もちろんこのプランだけでなく、車種ごとに異なるプランもきめ細やかに提供している。

 

また、メルセデスはビッグデータを活用し、どういったサービスプランが必要とされているかをつぶさに研究し、“マイメルセデスサービス”というこれまでよりサービス面がより充実しているにもかかわらず、従来より4割近く安いサービスプランを発売した。

 

2016年7月のこのサービスプランの導入以降、全購入者の3割以上がこのプランを選択した。“マイメルセデスサービス”はこれまでメルセデスが苦手としてきた若年世代の取り込みにも成功した。このサービスには、デジタルサービスドライブ機能があり、オンラインでサービスの予約やまたサービスアドバイザーとスカイプやフェイスタイムを通じてやり取りができるようになっている。

 

これはサービス店側にもメリットを生じさせ不必要な来店をお互いに避けることができるようになりより、真に必要なメンテナンスのみをケアすることができるような効率的な対応が可能となった。

 

こうして、様々な打ち手を立て続けに実行し、メルセデスはインドにおいて確固とした地位を築きつつある。マーケットリーダーとして、競合他社がメルセデスの歩んできた道をなぞるように似た打ち手を打ち出してきているほどだ。2009年のどん底時に離れてしまった顧客も今はまた戻ってきているようだ。彼らは他ブランドに乗ったものの「隣の芝生は青く見える」わけではなかったと改めて気がついた。

 

一方、メルセデスの今直面している課題は、高級車市場が横ばいにあることだ。2013年と2016年ではほぼ横ばいの販売台数であり、市場拡大をどう実現していくかに苦心しているが、高い税率などが科されていることもあり政治と絡む問題も大きい。インドの税制は高級車を極めて高額な価格設定にさせるようになっており、ある意味社会主義的ですらある。

 

しかし状況は着々と変わりつつある。

高級車を購入することは決してタブーではなくなり、一種のライフスタイルでありまた手に届きそうな現実になりつつある。インド全体の自動車販売台数のうち、高級車の占める割合はたったの1.2%であり、これはインドネシアはの.5%、マレーシアは5.4%、中国は8%、ドイツでは24%などと比べても明らかであり、世界で最低水準である。

メルセデスはこれまでの困難を市場の声に耳を傾け、様々な打ち手を実行し市場のリーダーの地位に再び上り詰めた。今後のさらなる打ち手に注目である。