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人口ボーナス成長期を迎え、経済成長率で中国を抜く

インドのCEOの報酬は高額なのか?

Kayo Osumi
Kayo Osumi
2018/2/26

・インド企業の経営者と従業員の報酬格差は700倍程度ともいわれており、この格差は欧米に比べてもはるかに大きい
・インフォシスのケースのように拡大する報酬格差、肥大化する報酬に株主から疑問の声も上がり、今後は報酬が適正かどうかがより問われる時代になる

2016年3月期のSun TV社の純利益が前年比17.6%増となり、CEOのカラニティ・マランの役員報酬も16.6%増となった。

アポロタイヤの純利益が同じく32.2%増となり、会長兼社長のオンカール・カンワ一ルの役員報酬は28.2%増となった。

ラムコセメントの純利益が一気に130.4%増を記録した際には、社長兼会長のラマスブラハマエヤ・ラジャの報酬は92.5%と跳ね上がった。

実は創業者兼社長の場合には利益と報酬には強い相関関係があり、純利益1%増に対して報酬は約0.69%増加している。

創業者かプロ経営者か

驚くことではないが、まず創業経営者は自身で報酬を決定できる立場にいる。役員の報酬を承認しなければならない取締役会を構成する取締役は、彼らのポジションは実は創業者によってその存在を保証されている。したがって役員は創業経営者の報酬に口をはさむことはない。

一方プロ経営者の報酬と業績にはあまり相関がみられない。インフォシスのビシャル・シッカ氏は2014年に就任したためデータがないため比較できないが、グルナーニの報酬は2014年と2015年を比較すると72.6%減となったが、その期間のテックマヒンドラの業績は純利益で42.5%増となっている。

しかし実際のところ、グルナーニはストックオプションをその期間に行使しており、実質の報酬は539%増となっている。

また、L&Tのナイクはその期間の会社業績が純利益ベースで5%増程度だったにもかかわらず報酬は142.3%増となっている。この報酬は主に就任時の条件として設定された1回だけの特別手当である6億9,930万円(38.85croreルピー)によるものだ。

 

プロ経営者の報酬は結果である業績よりも、取締役会が個々のプロ経営者に期待する能力、例えば、今後会社をどうやって業績回復させるか、将来どういう企業に導いてくれるのかなどに反映されている。だが最近では新興企業ではCEOの報酬体系はより業績連動に近づいているようだ。

 

また、企業側としては、プロ経営者に気持ちよく働いてもらいたいという、逆の見方をすれば、報酬を下げることでモチベーションが下がった中で経営を任せてもうまくいかないという考えが根底にある。

プロ経営者に企業の業績が良くなれば、その功績はCEOのものと評価されがちだが、業績が悪くなったとしても会社は引き続きプロ経営者が満足する報酬を提供してある意味、プロ経営者にとって優位な状況となっている。

 

しかしながら、ボーナスやコミッションがCEOに対して別途支払われることになっている層を明確にわけるならば状況は大きく異なる。

インディゴエアのアディタヤ・ゴーシュ、TCSのチャンドラセカン、ヒンダルコインダストリーズのバタチャヤラ、ITCのデヴェシュワル、ヒンドゥスタンユニリーバのサンジブ・メタだ。彼らの業績と報酬の間には明確な相関がある。合理的な成果主義的報酬体系は彼らが業績を上げられたときだけ高額の報酬を受けとる仕組みになっている。

 

例外はヒンダルコのバタチャヤラのケースである。

彼は業績ボーナスを2016年度に1.23億円(6.87croreルピー)、2015年度に1.14億円(6.34croreルピー)を受け取ったが、その期間に純利益は166.5億円(925croreルピー)から109.2億円(607croreルピー)に減少している。

これには2つの理由があり、一つにはヒンダルコ(アルミ圧延の世界的リーダー企業)だけでなく、いわゆる業界全体として世界的価格破壊の影響をもろに受けたため、回復が緩慢であったことがある。

また一方でバタチャヤラは13年の期間を務め、時価総額をおよそ1,624億円(9026croreルピー)から4兆9600億円(27,557croreルピー)に増大させた実績がある。以前は創業者とプロ経営者との関係は非常に強い結びつきがあり、長く就任していたケースが多かった。

 

時価総額でみた上位100社のうち、CEOの報酬は2012年-2016年の期間で年平均成長(CAGR)は18%増となっている。別のデータによれば、同じ期間で業績連動側の報酬体系となっている経営者は固定給べースで7-20%増となっているのに対して業績連動ボーナスも150-300%となっている。

これまではCEOの報酬構成のうち業績連動部分は2割から4割程度であったが、現在は特に時価総額が大きい企業では4割から6割となっている。これは創業経営者にも当てはまり、カラニティ・マランの2016年の報酬のうち業績連動分は8割を超え、オンカール・カンワルは7割を超えている。

 

短期か長期か

変動報酬には2つのタイプがある。

一つはボーナスやコミッションのような短期業績に基づくものと、ストックオプションなどの長期業績に基づくものだ。

ここ最近の傾向としては、長期的なスパンに立った報酬がおよそ3割から5割に達するなど増加している。これは長期と短期の業績報酬を分けることは、CEOが四半期ごとの業績だけでなく、長期の価値創造までを考慮することを要求する。報酬の増加傾向は、変動部分がより大きくなってきていることによる。

なぜならインドでは高い経済成長が続いており必然的に高成長が期待できるからだ。欧米諸国では業績連動(短期長期併せて)部分は89%に上り、インドでもその方向に向かっている。

しかしながら経済成長が順調に成長する限りにおいては、報酬に関するリスクはあまり表立つことはないだろうが、いったん経済成長が止まった場合には、新たな議論を引き起こす余地がある。

 

経営者と従業員

CEOが高報酬を受け取る仕組みが整備される一方、同程度に従業員の平均給与は上昇していない。つまりはトリクルダウン効果(富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちる経済思想)は生じていないのだ。

過去2年間のデータによれば、管理職でない従業員の給与が8-10%程度しか上昇していない一方、役員以上の報酬は2割近く上昇している。さらに困ったことに、従業員の給与は2012年の17%増と比較して2016年は8%程度の上昇と上昇ペースが鈍化しているにもかかわらず、役員はそれぞれ9%から23%と逆に増加しているのだ。

実際、上位10人の役員のトータルの報酬金額と従業員の平均給与の差はおよそ700対1という驚くべき差となっている。さらにプロ経営者と従業員はおよそ500対1、創業経営者とは900対1の差である。

これを例えばアメリカの状況と比較してみると、売上高が10億ドル以上の規模の企業クラスの168社のCEOと従業員の差は約70対1となっている。

実際のところ、多くのインド企業で格差はさらに広がっており、アマララジャグループの創業社長であるジャヤデヴ・ガラ氏の報酬は従業員と比較して2,448倍、アポロタイヤのオンカー・カンワル氏は1,425倍、ルピンのデシュ・バンドゥ・グプタ氏は1,317倍もの報酬を受け取っている。

 

これは、創業経営者はずうずうしく自身の報酬を決めていることを示している。企業の成功は決して一人の力ではなくチームワークによるものである。特に大企業であればあるほど、だれも一人の功績で企業の業績を推進することはできないにもかかわらず、インドはアメリカのコンセプトを取り入れ、GEのジャックウェルチ以降広まった誤った考えのもと、優れた経営者は他とは比較することはできないというコンセプトを接居的に受け入れた。

一方で欧米と比較してインドのCEOは別のプレッシャーを引き受けることとなった。それはたいていの業界では上位2社から3社程度の勝ち組のみがCEOの座を維持することができ、高報酬が正当化しうるということだ。インドは先進国と比べて高成長が見込める国であるため、国内の競合だけでなく欧米企業よりも高成長を期待されている。

たとえばヒンドゥスタンユニリーバでは、世界的には売上高ベースで3-4%成長程度だが、インドでは8-9%成長である。

 

経営者と従業員の賃金格差は会社の業態にもよるのも確かだ。例えばインフォシスのようなソフトウェア業態では、プログラマーやエンジニアが従業員の多数をしめるためその給与水準は控えめになりがちであり、したがってCEOと従業員との格差は大きくなる。

反対にタタコミュニケーションズは技術的な専門家が多数必要とされ、彼らの賃金水準は相対的にに高くなりしたがってCEOと従業員の報酬格差は小さくなる。また例えば、外部からプロ経営者を引き抜いてきた場合、例えばインフォシスのビシャル・シャルマはインフォシスに招聘される前はSAPのアメリカ法人に勤めており、引き抜きにあたり当然に前職時の報酬以上を出す必要がある。

カール・バチェックはそれまではエアバスに勤めており、タタモーターのグローバルCEOに就任するにあたり、彼らに引き受けてもらうためには当時の報酬を上回る必要があった。

 

今後の方向性

ムンバイ証券取引所に上場する時価総額上位100社では、企業としての成長ペースよりも、役員職以上の報酬の上昇率の方が高い。雇用の創出や従業員数は今後オートメーションの進展により大企業ほど減少していくだろう。実際に中堅企業クラスの従業員数は増加している。

さらに今後は、CEOの報酬と従業員給与の格差がさらに広がることとなれば、株主が黙っていられなくなるかもしれない。

実際にアメリカでは株主が声を上げるケースも出てきている。そしてその直近の一例がインフォシスの創業者であるナラヤナ・マーシー氏が同社CEOであるビシャル・シッカの報酬の55%近い増加が合理性を欠いていると疑問視し問題を投げかけた。

このケースは引退した創業者が主要な株主であることからありえたが、今後は金融機関など債権者を含めたステークホルダーが声を上げるかどうかによるところが大きいだろう。